私たちの血圧は、身体を動かしたり寒さを感じるなど少しのことでも上昇します。こうした一時的な血圧上昇は高血圧とはいいませんが、安静状態での血圧が慢性的に正常値よりも高い状態を高血圧といい、WHOの基準によると、最高血圧140mmHg以上、または最低血圧90mmHg以上が高血圧と定義されています。高血圧になると血管に常に負担がかかるため血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなることで固くなり、動脈硬化を起こしやすくなります。
厚生労働省「平成24年国民健康・栄養調査」によると、わが国の高血圧の人は約4,000万人と推定され、これは国民約3人に1人に相当します。高血圧は高齢者だけと思われがちですが、最近では若年層でも血圧の高い人が急激に増えています。高血圧にはほとんど特別な自覚症状がないため、家での血圧測定など日頃から血圧に関心を持つことが大切です。また健康診断で高血圧を指摘されたら、油断せずに医療機関を受診するようにしましょう。
予防と対策
高血圧症の主な原因には、塩分の過剰摂取や喫煙、飲酒、運動不足、ストレスの蓄積など、日頃の生活習慣が大きく関わっています。血圧が高めの人は日頃の生活習慣を見直すところから始めてみましょう。
塩分(ナトリウム)を過剰に摂取すると血液中のナトリウムの量が増え、これを薄めるために血管内に水分を引き込むため、血管の壁にかかる抵抗が高くなり血圧を上げてしまいます。そのため、血圧を下げるためには塩分の摂取を控える必要があります。日本高血圧学会の定めた高血圧患者の塩分摂取量の目標は1日6g未満となっています。日本人の平均塩分摂取量は1日11~12gですので、半分近くに減らさなければならないことになります。味噌汁や漬物を控える、料理の味付けを薄めにするなど、日頃から塩分を控えるよう気を付けたいですね。薄味にすると物足りなく感じる場合には、ゆずやレモンを絞って酸味をきかせたり、香辛料を活用するなど、ひと工夫することでおいしく続けられますのでおすすめです。塩味やおいしさはそのままで塩分を減らした調味料や食品もありますので、活用してみてはいかがでしょうか。また果物類、豆類、野菜類などに含まれる栄養素であるカリウムには尿の中に不要なナトリウムを排出させる働きがありますので、ほうれん草やバナナ、納豆、ひじきなどカリウムを多く含む食品の摂取も減塩と共に心がけると良いですね。
「酒は百薬の長」という言葉があるように、少量のアルコールは血行を促進したり、善玉コレステロールを増加させるなどの効果があります。適量とは日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本または中ジョッキ1杯、ワインならグラス2杯。焼酎なら1合の半分というところです。飲酒をすると一時的に血管が広がるのでその時は血圧が下がるのですが、適量を超えると、血管の収縮作用が強くなり、血圧が一気に上昇します。おつまみ等の量も増え、塩分摂取の面でもリスクが上がってしまいますので、飲酒をする場合には適量を心掛けましょう。
タバコは1本であっても高血圧リスクを上昇させます。タバコに含まれるニコチンが血圧を上昇させるホルモンを分泌させるからです。また、ニコチンは血管を傷つけたり、血栓をつくる物質を増やすことで動脈硬化を促進することもわかっていますので、血圧が高めの人は禁煙しましょう。
血圧は健康のバロメーターで、健康状態を知る手がかりになりますので普段から管理する事が大切です。血圧は時間や環境によって変化しています。できるだけ決まった時間帯に、同じ腕、同じ姿勢で測るようにしましょう。1~2分座って安静にしてから測定しましょう。1回ごとの血圧値で一喜一憂するのではなく、連続する5~7回の平均値を見るようにしましょう。血圧計は実際に操作してみて、ご自身が使いやすい物を選ぶと良いでしょう。上腕に巻くタイプが一番正確とされているのでおすすめです。
ヒートショックとは、急激な室温などの変化により血圧が急上昇したり急降下したり、脈拍が速くなったりする状態をいいます。 例えば、冬場に暖房の効いた部屋から外に出ると寒さでゾクゾクっとするのもヒートショックのひとつで、体温を一定に保つために血管が急激に収縮しているのです。血圧や脈拍の急激な変動は、心臓に思っている以上に負担をかけ、心筋梗塞や脳血管障害などにつながることもあるのでとても危険です。家庭内で高齢者が死亡する原因の4分1を占めるとも言われています。
高血圧、動脈硬化、糖尿病などの病気がある人や不整脈がある人、肥満気味で睡眠時無呼吸症候群など呼吸に問題のある人、65歳以上の人などはヒートショックを起こしやすいと言われています。 特に冬場の入浴時には寒い脱衣所と浴室の温度差で血圧の変動が起きやすいので注意が必要です。これを防ぐためには、脱衣所に暖房器具を置く、お風呂に入る前に浴槽のふたを開けておく、高齢者や高血圧の人の一番風呂は避ける、入浴の際はいきなり浴槽に入らず心臓に遠い部分からかけ湯をして身体をお湯に慣らしてから入るなど、温度変化ができるだけ少なくなるよう注意しましょう。また、お風呂以外でも廊下やトイレなどの温度にも注意が必要です。
トクホは健康が気になる方を対象にしている食品です。医薬品とは違いますので、病気の治療のために使用するものではありませんが、血圧を下げる効果が科学的に証明されている成分であるペプチド類、杜仲葉配糖体、ギャバ、酢酸などを含むものがいくつかありますので、血圧が高めの人は普段の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
○ペプチド類(胡麻ペプチド・ラクトトリペプチド・サーデンペプチドなど)
今注目されている食品成分であるペプチドはいくつかのアミノ酸がつながった構造をしており、牛乳やイワシなどの魚介類、コーンなどのタンパク質を酵素で分解して作られています。消化吸収が早く体力が低下している状態でも栄養素が吸収される特徴があります。
これらのペプチド類は身体の中で血圧調整をしている「アンジオテンシン変換酵素」という酵素のはたらきを阻害して血圧を下げることがわかっています。1日のうちいつ飲んでも効果に変わりはなく、4週間飲み続けたところ血圧が低下したという実験結果があります。
ペプチド類を摂取するとまれに咳(空咳)があらわれることがありますので、気管支喘息など呼吸器疾患のある人は注意が必要です。また、高血圧の治療を受けている人は医療用医薬品との併用に注意が必要な場合がありますので、薬剤師にご相談ください。
○杜仲葉配糖体(ゲニポシド酸)
杜仲は中国の四川省に原生する落葉高木です。この葉の主成分「ゲニポシド酸」は副交感神経を刺激することがわかっています。副交感神経が刺激を受けると末端動脈の血管が広がるため、血管内の抵抗が減り血液の流れが良くなることで血圧が下がります。血行が良くなることで冷え性、肩こり、関節痛などにも効果が期待できます。空腹時に飲むと最も効果的です。また、ゲニポシド酸には血圧に対する効果の他にも、血中コレステロール値、中性脂肪値、内臓脂肪の蓄積、血糖値などを改善するといった動物実験の結果が出ており、「メタボリックシンドローム」に対する効果も期待されています。
高血圧治療を受けている人は、医療用医薬品との併用で過度の血圧低下など副作用が出てしまうこともあるため薬剤師にご相談してください。
漢方薬は血圧を直接下げるというより、からだ全体のバランスの崩れや体質を改善することによって血圧を徐々に下げ安定させます。血圧を下げる作用は強くありませんが、肩こり、頭痛、動悸、いらいら、のぼせ等の高血圧に付随する症状を軽減する効果が認められていますので、体質や症状に合わせて試してみると良いでしょう。
中年以降で高血圧傾向のある人の頭痛には自律神経の亢進を抑える作用のある「釣藤散(ちょうとうさん)」がおすすめです。血管を拡張する作用のある“釣藤鈎(チョウトウコウ)”を含み、特に朝方目覚めたときの頭痛に効果があります。 体力が中等度以上で精神不安がある人の高血圧に伴う動悸にはストレスや不安、不眠に効果のある”竜骨(リュウコツ)”、“柴胡(サイコ)”、“桂皮(ケイヒ)”などを含む 「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」が適しています。比較的体力があり、のぼせて、便秘傾向のある人の高血圧に伴う頭痛、めまい、肩こりには「桃核上気湯(とうかくじょうきとう)」がおすすめです。イライラや不安に効果のある“桂皮(ケイヒ)”や血の巡りを改善する“桃仁(トウニン)”などを含みます。腹部に皮下脂肪が多く便秘傾向がある人の高血圧に伴う動悸、肩凝り、のぼせには、体内の代謝を良くし、肥満とともに血圧も改善する「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」がおすすめです。体格ががっしりとして便秘傾向のある人の高血圧に伴う肩凝り、頭痛には「大柴胡湯(だいさいことう)」がおすすめです。「大柴胡湯」はストレスによって血圧が動揺し、頭痛、イライラ、動悸などの随伴症状がある場合の自律神経を調節し安定させる作用の漢方薬です。
大病になる前から体のバランスを整えて、加齢とともに増えるリスクを随伴症状と共にうまく抑えていきたいですね。漢方薬の選び方に迷う場合には薬剤師に相談しましょう。