解熱・鎮痛・消炎のおくすりの話 その1

自宅のくすり箱の中に解熱薬や湿布薬が入っている人は多いでしょう。我慢できない痛みや急な発熱に備えて、一つ常備してあると安心ですよね。今回は身近な薬のひとつである解熱・消炎・鎮痛の薬についてお話します。

痛みについて

ところで、痛みって?

日常私たちが感じる「痛み」には、手を切った時や足を打った時などに感じる痛み、頭痛、歯痛、腹痛などさまざまな「痛み」があります。これらの痛みの主な原因は『プロスタグランジン』という物質の産生です。
プロスタグランジンは体の中の様々な生理機能を調節する物質の一種で、血圧の調整や胃腸機能の調整、分娩誘発など様々な働きをしています。例えば、手を切った時にはその傷ついた部位でシクロオキシゲナーゼという酵素の働きによってプロスタグランジンが作られます。ここで作られたプロスタグランジンはそこから侵入した病原体などが全身へ拡大しないように炎症反応を起こす作用があり、それによって痛み、熱、腫れなどの症状を引き起こします。痛みは電気信号に変わり、知覚神経という神経を通って脳に伝わります。そして脳で痛みとして認識され「痛い」という感覚が生じます。プロスタグランジンには痛みを感じやすくする働きもあります。他にも、月経時には不要となった子宮内膜を押し出すためにプロスタグランジンが働き、子宮の筋肉を収縮させます。これによって月経痛が起こります。

発熱について

ところで、発熱って?

人間の体温は脳の視床下部というところにある体温調節中枢によって維持・調節されています。日常みられる発熱の主な原因はウイルスや細菌などの感染です。これらに感染すると体の免疫システムが作動し『プロスタグランジン』が産生されます。このプロスタグランジンが体温調節中枢に影響を及ぼし、体温の設定を高めにセットするため体温が上昇します。この発熱は熱に弱いウイルスや細菌の増殖を抑え、それに打ち勝つために白血球の働きを高める体の防御反応の一つです。そのため安易に熱を下げることは良くありません。まずは安静にして、熱を逃がすこと、水分を補給することが大切です。一般に熱が高めでも元気がある場合には解熱剤を使用する必要はありませんが、高熱状態が続くことで脱水になったり体力が著しく消耗する場合には速やかに解熱させる必要があります。解熱鎮痛薬の服用の他に、首のまわりや脇の下、足の付け根を冷やす事も効果的です。子供の場合、解熱剤の使用の目安は38.5以上の時です。

解熱鎮痛薬について

主な解熱鎮痛薬には痛みや発熱の原因であるプロスタグランジンの産生を抑える作用のものと痛みの伝わりを抑える作用のものがあります。痛みが我慢できなくなってから鎮痛剤を飲む人も多いのですが、薬が効くまでには一定の時間がかかりますので、痛みが強まる前に服用する方が効果的です。

一般に解熱鎮痛薬には3つの種類があります。

非ステロイド性抗炎症薬:イブプロフェン、アスピリン、エテンザミド、ロキソプロフェンナトリウムなど

体内のシクロオキシゲナーゼという酵素の働きを止めてプロスタグランジンを作らせないようにすることで痛みを鎮めたり、熱を下げます。またノドの痛みや筋肉痛、関節炎などの炎症を抑えるのにもよく効きます。しかしプロスタグランジンには胃を守る働きもありますので、プロスタグランジンが作られないと胃が荒れてしまうことがあります。空腹時の服用は避け、食後すぐに服用し、長期間服用しないようにしてください。2011年1月には医療用医薬品のロキソプロフェンナトリウムが薬局で買えるようになりました。ロキソプロフェンナトリウムは痛みに早く効き、胃への負担の少ないプロドラッグです。プロドラッグとは成分が体の中に吸収されてから活性型に変化して効果を現わすお薬のことです。

非ピリン系解熱鎮痛薬:アセトアミノフェン  

痛みの伝わりを抑えることで痛みを鎮めたり、体温調節中枢に作用して高めにセットされた体温の設定を下げることで熱を下げる作用があります。胃の中のプロスタグランジンに関与しないので胃腸への負担が少なく、子供用の解熱鎮痛薬としても使われます。安全性の高い薬ですが、多量に飲みすぎると胃や肝臓を痛めることがありますので用法用量を守って服用してください。

ピリン系解熱鎮痛薬:イソプロピルアンチピリン  

非ステロイド性抗炎症薬と同じようにプロスタグランジンが体内で産生されるのを抑える薬です。痛みをしずめたり、熱を下げたりする作用は比較的強いのですが、炎症を抑える作用は弱いのが特徴です。市販の薬では他の解熱鎮痛成分と配合されています。副作用として、発疹(ピリン疹)などを起こすことがありますので注意が必要です。

市販の解熱鎮痛薬には鎮痛成分の他に、ブロムワレリル尿素や無水カフェインなどを組み合わせている物があります。ブロムワレリル尿素には頭痛に伴うイライラや緊張を鎮める効果があり、無水カフェインには中枢神経を刺激して疲労を緩和したり、眠気を抑える効果があります。また無水カフェインには同時に脳血管に作用して血管を収縮させて痛みを抑える作用もあります。痛みの感じ方が人それぞれ違うように、鎮痛薬の効果も人によって異なります。ご自分に合った鎮痛薬を選ぶと良いでしょう。

解熱鎮痛薬の注意点

解熱鎮痛薬の服用には注意したい点がいくつかあります。まず15歳未満の子どもでは使用できない薬があります。特に水痘、インフルエンザ等のウイルス性の病気の場合、重篤な副作用が報告されているため服用を禁止されている薬もありますので、インフルエンザなどの感染が疑われる場合には市販の薬を飲む前にすぐに受診してください。子どもの場合は子ども用の解熱鎮痛薬を選ぶようにしましょう。喘息の持病のある人は発作が誘発されることがあります。また糖尿病の薬を飲んでいる方は、解熱鎮痛薬を一緒に服用すると血糖値が下がり過ぎたりすることがあります。喘息や糖尿病の持病のある人は注意が必要です。

市販の解熱鎮痛薬は、痛みの原因を治すのではなく痛みを感じにくくする薬です。対症療法ですので、痛みの原因そのものを治すことはできません。また長く飲み続けることで胃を荒らしたり、肝臓、腎臓を傷めてしまうことがあります。安易な長期服用は止め、痛みが続く場合には早めに受診しましょう。

子どもは大人より体温が高い?

体温には深部体温と表面体温があります。深部体温は環境温度に影響されない身体深部の温度で、子どもも大人も38℃前後なのですが、その深部体温が組織や皮膚などを通るうちに低くなり表面体温となります。子どもは大人に比べて皮膚が薄いので表面温は37℃前後になりますが、皮膚が厚くなるに従って低くなり大人では36.5℃前後になります。また子どもは体重の割に表面積が大きいので、暑い環境下では熱を取り込みやすく、汗腺が未発達で小さいので汗の代わりに皮膚から熱を放散して体温調節を行うので表面の温度が高くなりやすいといわれています。衣服を着せ過ぎたりするだけでも熱が上がることがありますので、注意しましょう。

のどの痛み

風邪の典型的な症状の一つにのどの痛みがあります。これは主にのどの粘膜が炎症を起こしたり、頸部リンパ節が腫れている状態です。のどは空気や食べ物の通り道であると同時に、外部から侵入してくる病原体と接触する最前線でもあります。そのため、環境、気候の変化やからだの疲れなどでのどの粘膜の抵抗力が落ちると、すぐに細菌などの感染を起こしてしまうことになります。このようなのどの痛みには解熱鎮痛薬やトラネキサム酸などの消炎成分を含む物が良いでしょう。トラネキサム酸はアレルギーや炎症反応にかかわるプラスミンという酵素を抑えることで、喉の炎症を和らげます。また漢方薬では、炎症を鎮めるキキョウと痛みを和らげるカンゾウを組み合わせた桔梗湯や、消炎作用のあるキンギンカやレンギョウ、炎症を鎮めるキキョウ、ゴボウシなどを配合している銀翹解毒散などがあります。 その他、スプレー剤やトローチも有用です。喉の痛みに使われるスプレー剤やトローチには殺菌成分であるセチルピリジニウム塩化物や、炎症を抑える作用のアズレンスルホン酸ナトリウムなどが配合されています。メントール配合のものは清涼感があってすっきりします。

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