冬の皮膚トラブル
寒さと乾燥の季節がやってきましたね。冬はお肌にとってとても厳しい季節です。
寒さや乾燥はお肌にかさつき、かゆみ、ひび割れ、しもやけ、あかぎれなどの様々なトラブルをもたらします。しかし、これらの肌トラブルは、お手入れ次第で予防も治療も可能です。この季節のスキンケアを知ってすべすべお肌のまま冬を乗り切りましょう。
肌の表面にある角質層は通常10~20%の水分量を保っているのですが、冬は外気が乾燥しているため肌からの水分蒸散量が増加します。角質層が水分を失ってはがれてしまうと、見た目にもカサカサが分かるようになり、更に乾燥が進むと白く粉をふいたような“粉ふき肌”や角質がめくれあがって皮膚の表面がうろこのように見える“うろこ肌”になります。そうなると、本来角質層が担当しているお肌のバリア機能が低下し、外部刺激からお肌を守りにくくなって肌荒れやかゆみを引き起こします。 また、角質層は肌内部の水分の蒸発を防いでいる役割もありますので、はがれてしまうと水分の蒸発量が増え、更に角質がはがれることになってしまいます。
では、どうしたら良いでしょう。体全体を乾燥から守るためには、入浴直後の保湿を心がけましょう。入浴後の肌は角質層にたっぷりと水分を含み、しっとり柔らかくなっています。この状態で保湿剤を塗ると成分が浸透しやすく、時間が経っても乾燥しにくいのですが、何も塗らないで放置しておくと温められた体の熱によって、あっという間に水分が蒸発して乾燥が進行します。入浴中に最大だったお肌の水分量は入浴直後から急激に下がり始め、10分後にはすっかり元のお肌の水分量に戻ってしまいます。つまり、入浴によって角質層に含まれた水分が逃げないようにすぐにフタをしてあげることが重要なのです。
入浴後の角質層は水分を含んでいますので、ここに油の膜を張れば水分の蒸発を防ぐことができます。油分を塗った後に水分を塗っても油分の膜で水分は肌に浸透できませんので、入浴後以外でも、まず水分をたっぷり与えてからすぐに油分の膜を張ってあげましょう。
保湿剤を塗るのが面倒という方は、保湿効果のある入浴剤を入れたお風呂につかるのも方法です。その場合も、さら湯で上がり湯をせずに入浴剤入りのお湯で上がり湯をしてください。一番ベーシックな保湿剤は“ワセリン”です。ワセリンは皮膚表面に油脂性の膜をつくり、水分の蒸発を防ぎます。薬の基材としても使われますので、敏感肌の人やアレルギーのある人にはワセリンをお勧めします。そのままでは硬くて塗りにくいので、手のひらの上で混ぜて柔らかくしてから塗るとスムーズに伸ばせます。入浴後はそのままで、乾燥したお肌に使用する際には少し水と混ぜて水分を含ませてから塗ると効果的です。ただし、ワセリンは少々べたつく感じがあります。サラッとした使い心地が良い人はクリームや乳液タイプの保湿剤もありますので、ご自分に合ったものを探してみてください。
オイルだけでできるお手軽な保湿方法もあります。お風呂上がりに濡れたままの状態でオイルを全身に塗り、手で水分と油分をグルグルと混ぜてからタオルで押さえるように拭いてみてください。とても効果的ですよ。
清潔好きの日本人は体を洗う際にもついゴシゴシとこすり洗いをしてしまいがちです。洗い過ぎは必要な皮脂まで取ってしまい、皮膚のバリア機能を低下させて乾燥を進行させる恐れがあります。この季節はナイロンタオルなどを使わずに石鹸をよく泡立てて、泡で包みこむように洗うと皮脂を取り過ぎずに済みます。また、石鹸を選ぶ際にも乾燥肌用のもの選ぶと良いでしょう。
全身の乾燥ケアを怠らなくても、やはり体の部位によってはカサカサ、痒み、といった症状が出てしまうことがありますね。皮膚の乾燥は皮脂の分泌が少ない部位で起こります。“すね”は体の中で最も乾燥しやすい部位です。冬になるとすねがかゆくなるという方はとても多いのではないでしょうか?
かゆみが強いと我慢できずについつい掻いてしまいます。掻くことが刺激になって炎症がひどくなり、さらに痒くなるという悪循環に陥ってしまうこともよくあります。
このような場合は、お薬を使って早めに治療をしましょう。毎日こまめに塗ることで効果が上がります。薬によっては刺激を感じるものもありますので少量で試してみてから使い心地の良いものを選ぶと良いでしょう。“尿素”は体内の水分を角質層に取り込み、角質を柔らかくする作用があります。含有量が高いほど保湿効果が上がりますが、刺激を感じることもありますので、顔や皮膚の薄い部分への使用は避けた方が良いでしょう。“ヘパリン”は角質の水分含有量を増加させ、血行を良くする効果があります。
これらの保湿成分にかゆみを止める効果のある“リドカイン”や“ジフェンヒドラミン”を含有するお薬が主流ですので、毎日使えばかゆみも止まって、掻く→過敏の悪循環からも抜け出せると思います。
手や足は末端にあるため冬には血行が悪くなりがちです。特に日常生活の中で最もよく使う部位である“手”は乾燥によってバリア機能が低下すると洗剤などの外部刺激をダイレクトに受けてかゆみや炎症を引き起こしてしまいます。この時に掻いてしまうと更にバリア機能が低下してどんどん過敏になってしまいます。
乾燥が進むと皮膚のシワに沿って割れたような状態“ひび”の状態になり、ひびを放置しておくと、症状が悪化し、奥の真皮層までパックリ割れた“あかぎれ”になってしまいます。 これらの症状からお肌を守るためには、やはり乾燥を防ぐことが一番です。水仕事の際には必ずゴム手袋を着用して皮膚が直接水に触れないようにするのが理想ですが、できない場合には可能な限りこまめにクリームや軟膏をつかって保湿をしましょう。
保湿剤は保湿効果の高い“尿素”や“アロエ”含有のものを選ぶと効果的です。保湿剤を塗る際にも、ただ塗るのではなくマッサージをしながら塗ると血行も良くなります。また、赤みやかゆみが強い場合は症状が治まるまでの間、抗炎症作用の強いステロイド剤を塗ると良いでしょう。掻き壊した部位や出血している部位では化膿を防ぐために抗生物質配合のステロイド剤が適しています。“ビタミンA”には皮膚の新陳代謝を高め角化を防ぐ働きがありますので硬い皮膚が気になる人にお勧めします。また、マッサージには血行促進効果のある“ビタミンE”配合の薬を使うとより効果的です。
日中はなかなか塗れないという人は夜のケアをしっかりしましょう。ハンドクリームを塗り、マッサージをしてから手袋をして寝ると翌朝はしっとりとしています。クリームとセットになった手袋も市販されていますので、試してみるといいと思います。かかとのケアも夜が大切です。湯船につかって皮膚が柔らかくなったところで軽石やかかと用のやすりを使って硬くなった角質をとり除き、保湿クリームをたっぷりと塗ります。コットンの靴下を履いて寝ると翌朝はしっとりしています。ひび割れた部分の痛みが強い場合には、絆創膏やフィルムなどで一時的に保護してあげると良いでしょう。
水仕事が多い人は液体状の絆創膏を選ぶのも方法です。 ただし、絆創膏やフィルムは貼りっ放しにすると患部が蒸れて症状が悪化することがありますので気を付けてください。
しもやけは寒さで血行が悪くなって起こる炎症のひとつです。手の指や足先などの末端部分や、露出度の多い耳たぶや鼻先に起こりやすいのですが、お尻や太ももに出来ることもあります。しもやけには二つのタイプがあり、手先や足先、耳たぶや鼻先などに赤い発疹ができるタイプと、指や足が全体的に腫れて膨らむような症状のタイプがあります。“ジンジン”とした感覚やむず痒い、痛い、熱いというような症状が出ます。放置しておくと我慢できないほどのかゆみや痛みが出ることもありますので、早めの処置を心がけましょう。
しもやけは血行不良が原因ですから、普段から体を冷やさないようにすることが一番の予防策です。特に冷え性の人はしもやけになりやすいため、外出時にはマスクや手袋を着けたり、厚手の靴下を履くなどして 末端部分を冷やさないようにしましょう。先端の尖った靴やハイヒールを長時間履き続けることも血行不良の原因となります。また、汗をかいたまま放置しておくと汗が乾く際に皮膚の表面温度が下がってしもやけになることがありますので、汗をかいたらすぐに拭きましょう。“ビタミンE”には、末梢の血管を広げて血行を良くする作用があります。ビタミンEが不足するとしもやけになりやすいとも言われていますので、しもやけができやすい人は積極的に摂取して体の中から血行を良くしていきましょう。“ビタミンC”を一緒に摂るとビタミンEの効果をアップしてくれます。塗り薬にも血行促進作用のある“ビタミンE”や“ヘパリン”を含有しているものがよく使われます。塗り薬を塗る際には軽くマッサージをするように塗ると血行が良くなり効果的です。 漢方では、血行を良くして体を温める効果があり、冷えによる痛みを取り除く作用のある“当帰四逆加呉茱萸生姜湯”(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)や血液循環を良くして手足のほてりを取る一方、体全体を暖める効果のある“温経湯”(うんけいとう)がお薦めです。漢方薬の塗り薬では、炎症をやわらげ皮膚の再生を助ける作用のある赤紫色の軟膏“紫雲膏”もしもやけによく使われます。
打ち身や捻挫の時などに使う湿布や塗り薬が家にあったら効能を見てみてください。“しもやけ”と書いてありませんか?成分として“ビタミンE(トコフェロール)”が入っていれば、その血流改善効果でしもやけを改善します。意外な気もしますが、「効いた」との声もよく耳にします。